東京高等裁判所 昭和31年(う)1293号 判決
被告人 藤井憲司
〔抄 録〕
一、職権を以て按ずるに、
本件については、初め昭和二六年九月一七日附起訴状により公訴提起あり(以下之を本訴と呼ぶ)、次いで、同年一一月二六日附追起訴状と題する書面によつて更に公訴提起せられ(以下之を追起訴と呼ぶ)、原審においては右両者を併合審理中第三回公判期日において右本訴の公訴事実内容につき検察官より釈明あつた結果、両公訴事実の主要なる部分は被告人が藤井茂を通じて藤井喜一を脅迫したとの点にあつて略々同内容に帰することが記録上認めることができる。故に原審においては右追起訴は既に本訴のあつた事件について更に同一裁判所に提起された公訴として刑訴法第三三八条第三号により当然之を棄却すべかりしに、これをなさず、本訴と相ならんで追起訴につき実体的判断をなし之により被告人に有罪判決を言渡したのは、刑訴法第三七八条第一項第二号にいわゆる不法に公訴を受理して訴訟手続上の違法に至つたものである。従つて、原判決は、まず此の点において破棄を免れない。
(久礼田 武田 石井文)
(註) (二六年九月一七日附起訴状記載の公訴事実)
被告人は藤井喜一と隣地の国有地買取権利取得の件で平素より仲が悪く又被告人は同国有地に対する耕作権がないため買取に際して優先権がないにもかかわらず同地所に新たに耕作権を取得した右喜一と同一に畝歩の分配を主張して居つたものであるが、昭和二五年一月二五日頃神奈川県愛甲郡睦合村妻田六〇番地自宅で右喜一の親族にして且つ同件処理の代行者である藤井茂から自己の主張と違う四分六分配なる条件を提示されたので之を憤慨し自宅一五畳座敷の鴨居に置いてあつた棍棒を持ち出し「とるならとつてみろ、これから行つて喜一を殺して仕舞う」と同人に対し大声で怒鳴りつけ以て同人の親族である右喜一の生命に害を加うべきことを動作並びに口頭を以て告げて同人を脅迫したものである。 及びこれに対する
(三一年九月一四日附訴因変更申立書記載の公訴事実)
被告人は藤井喜一と隣接し、共に農業を営む者であるところ、両人の居住地の間に在る国有地の買取問題で不仲となり被告人には右国有地に対する耕作権がないため買取に際して優先権がないにかかわらず、同国有地に新たに耕作権を取得した右喜一と同一割合の買取分配を主張していたものであるが、昭和二五年一月二五日午後九時頃神奈川県愛甲郡睦合村妻田六〇番地自宅に於て、右喜一の親類で予てより右土地事件の処理の仲介人である藤井茂から自己の主張と違う四分六分の分配条件を提示されたのに憤慨し、自宅一五畳座敷の鴨居に掛けてあつた棍棒を持ち出し「取るなら取つて見ろ、これから行つて喜一を殺してしまう」「喜一方に火をつけて家族を皆殺しにする」等と藤井茂に対し、大声で怒鳴り告げ、もつて右藤井喜一並びにその家族の生命財産等に害を加うべきことを動作並びに口頭をもつて、右茂を通して右喜一に告知し、因つて右喜一を脅迫したものである。
(二六年一一月二六日附追起訴状記載の公訴事実)
被告人は藤井喜一と隣地の国有地買取権利取得の件で平素より仲が悪く又被告人は同国有地に対する耕作権がないため、買取に際して優先権がないにもかかわらず同地所に新たに耕作権を取得した右喜一と同一に畝歩の分配を主張して居つたものであるが、昭和二五年一月二五日頃神奈川県愛甲郡睦合村妻田六〇番地自宅で右喜一の親族にして且つ同件処理の代行者である藤井茂から自己の主張と違う四分六分配なる条件を提示されたので之を憤慨し自宅一五畳座敷の鴨居に置いてあつた棍棒を持ち出し「とるならとつてみろ、これから行つて喜一を殺して仕舞う」又更に「喜一方に火をつけた上家族を皆殺しにする」等の旨を同人に対し大声で怒鳴り告げ、以て右喜一並びにその家族の生命財産等に害を加うべきことを動作並びに口頭を以て同人に告げて間接に右喜一並びにその家族等を脅迫したものである。